FX取引をしていくうえで必ず理解しておかなければならないことのひとつに「スプレッド(Spread)」があります。
このスプレッド、あなたはちゃんと理解できていますか?きちんと知っておかないと不要な損失につながることもあるので、もしよく知らない場合、この機会にしっかり学んでおきましょう。
ここでは、このスプレッドについて初心者の方にも知っておいてほしい6つのことをわかりやすくまとめてみました。FXのスプレッドについてはこの6つを知っていれば十分ですので、よろしくお願いいたします。
FXのスプレッドとは
FXでいうスプレッドとは「買値と売値の差額」のことをいいます。
FXは下図のように、為替レートを表示する際にはツーウェイプライスといって買うことができる値段(買値=Askレート)と売ることができる値段(売値=Bidレート)の2つの価格を同時に提示します。
この買値と売値の価格差(=買値-売値)のことをスプレッドといい、FX取引におけるコストになるのです。
上の図でいうと、買値である114.260円と売値である114.257円の差額である「0.003円=0.3pips」がスプレッドですね。
参考までにスプレッドを一覧表で見るとこんな感じです。
スプレッドのもうひとつの意味
実はこのスプレッド、別の意味もあるのです。それは、売値と買値の差は伸縮するという意味です。
どういうことかといいますと、売値と買値の差でいうスプレッドは、一定ではない、ということです。為替レートは様々な要因で高くなったり、安くなったり変動しています。特に、重要な経済指標(特に米国雇用統計)前には全体的な取引自体が減少してしまい、流動性が小さくなることからスプレッドは広がったりすることがあるのです。
銀行の外貨預金のスプレッド
FXでの取引にはスプレッドがあることが分かりました。
ではFX以外の為替取引である外貨預金はどうでしょうか。実は、外貨預金も為替取引であるのでちゃんとスプレッドが存在します。
銀行で外貨預金をする場合、「TTS(Telegraphic Transfer Selling Rate)」といって、私たち(=顧客)が持っている日本円を外貨に両替することができる為替レートと、「TTB(Telegraphic Transfer Buying rate)」といって、私たち(=顧客)が持っている外貨を日本円へ両替することができる為替レートがあります。
この「TTS」と「TTB」の2つの価格がFXでいう「売値」と「買値」の2種類と同じであることから、この価格差がスプレッドということになります。
因みにこの「TTS」と「TTB」の2つの価格、何から算出されているかというと、それは仲値(Middle Rate)という日本の金融機関がの日本時刻の午前10時位の為替レートを基準にして、米ドルなら±1円を加算して「TTS」と「TTB」の2つの価格にしています。
例えば、仲値が100.00円だったとすると、私たちが日本円を外貨に両替できる為替レート(TTS)は「101.00円(=100.00円+1.00円)」となり、私たちが持っている外貨を日本円に戻す(両替する)場合の為替レート(TTB)は「99.00円(=100.00円-1.00円)」ということになるのです。
スプレッドでも使う「pips(ピプス)」とは?
FX取引をしていると「利益が100pips取れた」とか、「損切りは50pips以内に設定する」といった表現を聞いたことがあるかと思います。ではこの「pips(ピプス)」とは何のでしょうか。
1pipsとはなにか
1pips(ピプス)とは、下記表のようにドル円の他、ユーロ円やポンド円といった「クロス円」の場合は「0.01円=1銭=1pips」になり、クロス円以外の、ユーロドルやポンドドルといった通貨ペアは「0.0001ドル=1pips」となります。
pipsの昔の説明
「pips」は一昔前の本には「最小取引単位」という説明がありました。しかし、現在ではそれは間違いです。確かに一昔前までは「最初取引単位」でも正しかったのですが、現在はそうではないからです。
具体的にいうと、下記のように現在と一昔では価格の桁数表示が違っているんです。
以前 | 現在 |
115.50円 | 115.502円 |
このように、例えばドル円なら一昔前なら「115.50円」「112.30円」という表記であったのが、日本のFX会社がスプレッドを狭くする”スプレッド競争”をした関係で、どんどんスプレッドが狭くなりとうとう1pips以下にまで縮まった(例、0.3pips等)ことで、1pips以下の表記が行われるようになったのです。
正しい「pips」の意味とは?
ここまでpipsのことをいろいろと書いてきました。では正しい意味は何かというと、それは「Percentage in point」ということで、「pips」とは最小の通貨単位の1%(1/100)分のことをいうのです。
例えば、日本円の最小通貨単位は1円ですが、この1円の1%は0.01円=1銭なので、1pipsは0.01円ということになります。
また、米ドルの最小通貨単位はセントですが、この1セントの1%は0.01セント、つまりドルで表現すると、1ドル=0.01セントなので、1pips=0.0001ドルということになるのです。
スプレッドで発生するコストの計算方法
現在、日本のFX会社で取引手数料がかかるところは少なくなっています。しかし、取引手数料がかかってないからFX取引でコストがかかってないかといえばそうではありません。
実は、スプレッドがFXで取引をする際のコストになるんです。それでは、どれ位の費用負担になるかの計算方法を学びましょう。
スプレッドで発生するコストの方程式
スプレッドを使ってコスト計算する際の計算式は下記になります。
取引コスト(片道分)=(スプレッド÷2)×取引量
※片道分とは、新規建玉時、もしくは決済時の取引分こと
になります。
ツーウェイプライスで表示されているスプレッドはコストで考えると往復分(新規建玉と決済=買いと売りのセット)になるんですね。
では、次は具体的に計算してみましょう。
スプレッドから取引コストを計算する具体例
例1、
ドル円で1万ドルを、新規建玉時と決済時のスプレッドが各1pipsの場合の往復分の手数料(コスト)は、
新規建玉時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.01÷2)×10,000=0.005×10,000=50円
決済時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.01÷2)×10,000=0.005×10,000=50円
回答
往復で100円(=50円+50円)の手数料相当分がかかっているということになります。
例2、
ドル円で1万ドルを、新規建玉時のスプレッドが1pips、決済時のスプレッドが2pipsの場合の往復分の手数料(コスト)は、
新規建玉時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.01÷2)×10,000=0.005×10,000=50円
決済時
(2pips ÷2)×10,000通貨
=(0.02÷2)×10,000=0.01×10,000=100円
回答
往復で150円(=50円+100円)の手数料相当分がかかっているということになります。
例3、
ユーロドルで1万ユーロを、新規建玉時と決済時のスプレッドが各1pipsの場合の往復分の手数料(コスト)は、
※便宜上、1ドル=100円で計算します。
新規建玉時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.0001÷2)×10,000×100円(為替レート)
=0.00005×10,000×100円(為替レート)=50円
決済時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.0001÷2)×10,000×100円(為替レート)
=0.00005×10,000×100円(為替レート)=50円
回答
往復で100円(=50円+50円)の手数料相当分がかかっているということになります。
例4、
ユーロドルで1万ユーロを、新規建玉時のスプレッドが1pips、決済時のスプレッドが2pips場合の往復分の手数料(コスト)は、
※便宜上、1ドル=100円で計算します。
新規建玉時
(1pips ÷2)×10,000通貨
=(0.0001÷2)×10,000×100円(為替レート)
=0.00005×10,000×100円(為替レート)=50円
決済時
(2pips ÷2)×10,000通貨
=(0.0002÷2)×10,000×100円(為替レート)
=0.0001×10,000×100円(為替レート)=100円
回答
往復で100円(=50円+100円)の手数料相当分がかかっているということになります。
どうでしょうか、仕組みを理解できましたか?仮に往復のスプレッドが同じの場合はそれが往復分のコストと考えれば計算が早いですね。
スプレッドが広がるとはどういうこと?
スプレッドというと、何となく固定されているイメージがありますが、実は固定されてはいません。同じドル円でも、スプレッドは0.3になったり0.5になったり、場合によっては1.0になったりします。このようにスプレッドは広がったり縮んだり伸縮しています。
会社によってもスプレッドは違う
上記で、スプレッドは広がったり縮んだり伸縮するということを学びました。その伸縮具合はFX会社によっても違います。つまり、FX会社によって差があるということです。でもそれは何故でしょうか。
それは、為替レートの仕入れ先(カバー先=カウンターパーティ)がFX会社によって違うからです。これは「インターバンク市場」を理解できると分かるようになりますので、不明な方は銀行間取引市場(インターバンク市場)を理解する5つのコツをご覧ください。
スプレッドはどういう理由で伸縮する?
さて、これまでスプレッドは伸縮する、そしてそれはFX会社によって違う、ということを学びましたが、ここでは「どういう理由で変動(伸縮)するのか?」を学びます。結論からいえばその理由は多岐にわたっていますが、以下の2つを知っていれば十分なのでそれを紹介します。
流動性
FXを含む為替取引でいう「流動性」とは、「取引量(=出来高)」のことをいいます。
一般的にモノの価格というのは、たくさん流通されていれば価格は「安く・安定」して提供されるものですが、これが需要に対して供給量が少ないと必然的にモノが不足しているということで、価格は上昇する傾向にあります。
為替も同じで、たくさん売買(取引)されていれば価格は安定するため、スプレッドは狭くなりやすいですが、逆に取引量が減ってしまうと価格は不安定になり、スプレッドは広がりやすい傾向になります。ということで、スプレッドの伸縮理由は流動性ということになります。
経済指標発表前(雇用統計)
次は「どういうときに流動性が低くなるか」ということですが、これも様々な要因があります。ただ、ひとつだけ挙げるとすれば、それは「経済指標の発表前」ということになります。
気を付けてほしいことは、すべての経済指標の前に流動性が低くなるということではなく「重要な経済指標の前になりやすい」ということです。特に、米国雇用統計(基本的に毎月第一金曜日に発表)は注目されていることから、発表前は取引が乏しくなり、流動性が低くなってしまうため、スプレッドは広くなりやすくなります。
その他、震災や天変地異、テロ等によって流動性が低下してスプレッドが広がることもありますので、片隅で覚えておきましょう。
スプレッドの原則固定とはどういうこと?
これまで、何度もスプレッドは伸縮するということを述べてきましたが、各FX会社のスプレッドを見ると「原則固定」という表記をしている会社もあります。これは一体何なのでしょうか。
「原則固定」とは、基本的には一定のスプレッドで固定しているが、上記で学んだ経済指標発表前やそれ以外の理由によって、広がることがあるということです。あくまで「原則」であって「完全固定」ではないですので注意してください。
スプレッドは狭ければ勝てるのか?
スプレッドの話で忘れてはならないのが「スプレッド競争」です。私がFXの仕事をするようになった2000年は、ちょうど日本でFXがスタートして間もないときでした。その頃のスプレッドは、ドル円やユーロドルが5pips、ユーロ円で7pips、ポンド円にいたっては8pips位ありました。今では考えられない広がりようですね。
それで、その後ネット系のオンラインFX会社が台頭してきて、そこで各社がどんどんスプレッドを狭くすることを競う「スプレッド競争」が始まりました。これにより、これまでドル円で5pipsあったスプレッドが0.3pips位の原則固定まで狭まりました。実に17分の1のレベルです。
また、これだけではなく実は昔はスプレッド以外に別途取引手数料がかかっていました。
会社によって違いはありますが、大体10万通貨あたり8,000円、20万通貨なら16,000円ということです。この取引手数料をスプレッドに換算すると8pipsに相当しますので、往復分のコストで考えると、「5pips+8pips+8pips=21pips」のコストがかかっていました。現在の個人投資家からすれば驚きのコストです。
ということで、会社努力によって狭まっていったスプレッドですが、狭くなってコストが抑えられたおかげで個人トレーダーが勝てるようになったかというとそうではないです。
よく負けトレーダーが9割で、勝ちトレーダーは1割位しかしない、と言われていますが、この比率は今も昔もそれほど変わりません。
スプレッドが広くても勝つ人は勝つし、逆にスプレッドが狭くても負ける人は負ける。結局、スプレッドが狭まってコストが抑えられるようになっても、勝ちトレーダーが増えてはいないんですね。確かにコストは抑えられた方がいいですが、でもそれが勝ちの要因になるよいうことではないということが分かります。
まとめ
これまで、スプレッドについて是非とも知っておいてほしい6つの項目を挙げてきました。この6つを知っていればスプレッドについては十分です。
この知識を日々のトレードに活かして、スプレッドとは何なのか、コストはどれ位なのか、ちゃんと分かって取引して勝ちトレーダーの一員になってください。